バスケ日本代表戦が近くなると必ず論争が起こる「富樫の日本代表入りの是非問題」。
この記事では、一般的な必要論と不要論の両方を考察していく。
○代表候補 富樫勇樹 ハイライト
○一般的な富樫不要論を考察する
1.高さの面でディフェンスの穴になる
その通りだ。間違いない。
地上より3mの高さにあるバスケットにボールを入れた得点を競うという競技の特性上、スモールプレイヤーは不利だ。オフェンスではテクニックやスピードでカバーできるが、ディフェンスでは体のサイズとパワーが大きなウェイトを占める。サイズが無い富樫がディフェンスで不利になることは自明の理だ。
ただし、「ディフェンスで穴だからゲームに確実に悪影響を及ぼす」という意見には同意しかねる。富樫のミスマッチを突かれる場面にも、日本に有利に働くケースがあると筆者は考えている。
次にシチュエーションを列挙し、評価していく
①相手プレイヤーに富樫の上からスリーを打たれる
これは日本にとって悪いシチュエーションだ。
アジアでは大きな問題ではないが、世界相手は厳しい。
長身で優秀なシューターにプレッシャーが少ない状態で打たれると高確率で決められるだろう。
相手ガードのシュートタッチが良い場合は、即座に富樫を下げる判断が必要になる。
逆に、相手のシュートタッチが悪いときはチャンスだ。ムキになって、富樫の上から入らないシュートを打ち続けてくれるかもしれない。
②ポストアップされてゴール下まで押し込まれる
富樫不要派の多くはこのシチュエーションを想定しているのではないかという印象が強い。
ポストアップされてパワーでゴール下まで押し込まれるという状況。これはスモールプレイヤーにとって最も効果的なオフェンスと言える。しかし、実はこの状況は、条件付ではあるが日本にとって五分のシチュエーションだ。微有利まであるかもしれない。
その理由は、八村や渡辺やギャビン、ロシターがヘルプに行きやすいからだ。相手は押し込んだところでイージーレイアップまではいけない。
NOTE
Bリーグで誰も富樫相手にポストアップをしないのはこれが理由だ。富樫を押し込んだところで外国籍のプレッシャーでシュートが打てないのだ。その密集状態でインサイドを攻めるなら、普通にビッグマンのアイソレーションを仕掛けたほうが良い。
富樫へのポストアップはシーズン初めは何回か見たが、ここ20試合ではたったの1度も無い。各チームが「富樫へのポストアップは有効ではない」と判断した証拠だ。
ダブルチームに行って捌かれたところを高速ローテーションでカバーする必要があるが、富樫のディフェンスは関係なく、このディフェンスが出来ないと世界とは絶対に戦えない。
なぜなら、世界相手では基本的に相手のパワープレイを1対1で守れないからだ(八村は守れるかもしれないがファウルが怖い)。そのため、インサイドへのアタックはダブルチームで対応し、パスアウトへは高速ローテーションで対応するシステムを採用する前提で話を進める。
【日本を相手にしたときにベストなオフェンスとは?】
日本を相手にするときに最も有効な戦略は、圧倒的エースの八村をファウルトラブルに陥らせることだ。八村のエネルギーをディフェンスに注がせて消耗させたり、フラストレーションを溜めさせるのも良い。
つまり、八村にパワープレイを仕掛けることが基本戦術となる。ファウルが怖い八村は序盤は全力でディフェンスが出来ない。ここを攻めるのが上策だ。
背が低いからといって相手PGを攻めて、とんでもない速さでヘルプに来た八村に豪快なブロックをされて気持ちよくなられるリスクを負うのは下策だ。
③ミドルポストアップからターンアラウンドシュートを打たれる。
世界相手では高確率で決められるため良くないが、アジア相手ならクラッチタイムを除いて五分のシチュエーションだ。良くもないが悪くはない。
その理由は単純に、ミドルポストアップからのターンアラウンドジャンパーは難しいからだ。PGがポストアップするという特殊な動きで自分達のオフェンスのリズムをわざわざ崩してくれて、高難度の4割程度の2点シュートを打ってくれるなら、日本にとって悪い話ではない。
世界基準のプレイヤーだと富樫相手だと5割以上決めてくるだろうから、日本にとって厳しいと言わざるを得ない。確率の下振れを期待するギャンブルの価値はあると思うけどね。
④富樫の頭上がフリーパス状態になり、インサイドへ容易にパスが出される
これはマズイ。
特に八村のマークマンにボールが供給され、八村が攻められる展開が厳しい。
ただ、富樫に限らず、世界のPG相手に「シュート」「ドライブ」「ピック&ロール」を警戒しながら、「パス」へのプレッシャーがかけられるディフェンダーは八村、渡辺、馬場しかいないのではないか(田中でさえ厳しい)。
現戦力で、世界を相手に日本が出来る最善のディフェンスは、
1.ドライブを全力で防ぐ
2.ペイントへ進入されたらダブルチーム
3.パスを捌かれたらローテーションでスリーに対して全力でコンテストする
の3つに集約されると筆者は考える。
NOTE
3が出来なかったためにW杯ではスリーを撃たれまくった。
日本にとっては、ポストにパスを入れられることは看過できる問題であり、その後のローテーションや、シンプルにドライブでの進入を許さないディフェンスの方が重要度が高いと筆者は考える。
富樫が相手のドライブを防げるか、ローテーション後に相手のスリーへプレッシャーをかけられるかは別項目を参照。
2.リバウンドが弱い
これはイメージが先行して過小評価されている。富樫はサイズは無いが、機動力を生かしてリバウンドを奪うことが出来る。
今シーズンのリバウンド数は、2.3で、次の日本代表プレイヤーよりも多く奪っている。
・田中 1.8
・ベンドラメ 2.2
・篠山 1.8
・辻 1.3
・比江島 2.0
3.スモールプレイヤーなのに平面のディフェンスが悪い
これは、判断が難しい。
言い方が悪いが、富樫はシーズン中に本気でディフェンスをすることが少ない。
河村君のデビュー戦は本気だった。日本代表のライバルPGとやるときも本気だ。その他は・・・流してるように見える。抜かれてもディレクションをしっかりやれば、ギャビンかパーカーが何とかするからね。
本気の時のディフェンスに限れば、B1の平均以上のディフェンダーに見える。余計なハンドチェックをしないため、無駄なファウルが少ないことが特徴だ。
4.Bリーグで無双するようなプレイが国際戦では出来ない
これは事実だ。
富樫は、ピック&ロールでマークマンを振り切っても積極的にプルアップジャンパーを打ちに行かずに自らリズムを崩している。
結果、オープンでもシュートを外している。
アジアに関して言えば、ディフェンダーからのプレッシャーはBリーグと比べて弱い(Bリーグは富樫対策が進みすぎた)にも関わらずだ。
この原因は、千葉ジェッツが「富樫のチーム」であることに起因する(チーム内USG%が1位)。
代表でプレイする富樫は「いつも以上に打つシュートを選ばなくてはいけない」と消極的に考えているのだろう。
代表でも千葉ジェッツと同じように富樫が1stオプションの時間帯を作ることで解決できる問題ではないかと考える。
例)
富樫、田中、馬場、アヴィ、ギャビンとかのディフェンシブなメンバーで3分~5分
●不要論まとめ
致命的な弱点となるのは、「富樫の上からスリーを打たれる」ことだ。スリーが得意な相手には出すべきではないだろう。
一般的に言われているその他の弱点に関しては、富樫に関係なく日本が克服しなければならなかったり、他のプレイヤーでも克服できない問題であったり、システムの工夫で克服できる見込みのある問題だったりする。
不要とするほどの有力な根拠ではないと筆者は考える。
○一般的な富樫必要論を考察する
1.世界相手では安定してボールを運ぶことが難しくなるから、優れたボールハンドラーが必要
富樫がBリーグ最高格のボールハンドラーであることは間違いない。
ただし、ボール運びに関しては過大評価されている。スモールプレイヤーは、懐が狭いので、腕が長いプレイヤーからはボールを守りづらいのだ。
アジアでは問題ないが、世界相手では他のPGと同じくらい苦戦するのではないかというのがワイ氏の予想だ。W杯でプレイする富樫が見たかった・・・。
ただし、富樫以上のハンドラーはBリーグにはいないので、この点で必要なことに異論は無い。
2.日本代表にはオフェンスの起点となれるプレイヤーが少ない
これはその通り。
W杯で、オフェンスのラインが全く上がらずに、ペイントどころかコーナーにすらボールが入らないことがあったことが印象的だ。富樫がいたらこれを突破できていたか見たかった・・・。
また、もしファジーカスが抜けると、インサイドからの1ON1のオプションが弱くなるから、アウトサイドからのピック&ロールのオプションが日本代表にとって重要になる。そのときに富樫が必要になる。
3.シンプルに富樫より優れたガードがいない
これはわからない。プレイする環境が違うので比較が難しい。比較してるけどww
これに関しては、代表合宿で試してみるしかないと思うんだよなあ・・・。
何が言いたいかと言うと、藤井と斉藤を合宿に呼べ。何が何でもロスターに入れろとは言わないが、ラマスHCにプレイを見てほしい。
ただし、富樫は、Bリーグで「エース」と呼べる唯一の日本人(金丸はガードナーに1stオプションを譲った)で、研究と対策を重ねられているにもかかわらず、日本人得点ランキング1位を記録しているので、「日本最高のガード」と評されることに微塵も違和感を感じない。
4.PGとしてのコミュニケーション能力(語学力)
アメリカ留学経験のある富樫は、英語が堪能である。
コーチや帰化枠のプレイヤー、アメリカ出身選手とのコミュニケーションが円滑に取れることはPGとして大きな素養である。
5.ルカもラマスも富樫を評価してスターターとして起用していた
権威主義のこの手の論調をワイ氏は好まない。
ルカは日本最高のHCだと思うが、就任期間が短かったため本当に富樫を評価していたかは疑わしい。
また、ルカやラマスが富樫を重用する理由には、上記の「英語が話せる」という点も大きいのかもしれない。
●必要論まとめ
世界相手に通用するかはわからないが、必要論者が主張する内容は、確かに富樫が日本で一番だ。
○富樫が日本代表にもたらす隠れた強みとは
ここからは、一般論ではなくワイ氏の持論だ。
●富樫のストロングポイントは、「スコアラーにボールを供給する能力」
・ポストにボールを入れるのが上手い
富樫は、派手なドリブルやプルアップジャンパーばかりがクローズアップされているが、「ポストアップするビッグマンにボールを入れること」がめちゃくちゃ得意なのだ。
これには2つ理由がある。
①ドリブルからの片手パスが上手い
②ビッグマンのマークマンがディナイしてこない。
①はそのままなのだが、どんなのだっけ?っていう人はこれ見て↓
②はビッグマンにとって恩恵が大きい特性だ。
富樫がドリブルできる限り、相手ビッグマンは富樫のドライブとピック&ロールに対応する準備を常にしなくてはいけない。その中で、相手ビッグマンが、ポストアップに対してディナイすることはリスクがに大きい。
ペイントを空けることになるし、その状態でピック&ロールされれば、有効なディフェンスのポジションにつけないからだ。
富樫がドリブルをミスってTOした場面は数多く見てきたが、ポストへ入れるときにスティールされた場面は思い出せない。
・調子の良いプレイヤーにボールを集めるのが上手い
富樫は、単純にオープンのプレイヤーにパスを出しているわけではなく、「ノっている」プレイヤーにボールを供給している。
ビッグマンが豪快にブロックした後の速攻では、可能な限り、そのビッグマンが速攻に参加できるペースでボールをプッシュしてダンクさせることで、より調子を上げさせる。
調子の良いシューターには、ワイドオープンの他のプレイヤーへのパスを匂わせてからしっかりとオープンの状態を作ってボールを供給する。
これらのコートビジョンやバスケIQはやや過小評価されていると感じる。
●富樫は「要対策」プレイヤー
タフショットでも決めてくる金丸やリズムが独特な比江島にも同じことが言えるのだが、富樫は他国にはいない(多分)ユニークな存在で「要対策プレイヤー」だ。
対戦チームの貴重な時間をスカウティングや対策に注がせる富樫は、試合前から活躍しているという見方も出来るのではないか。
○富樫を最大限に活用する起用法とは
上の不要論でも書いているが、3分でいいから「富樫が1stオプションの時間帯」を作るんだ。
なんだかんだ言っても、富樫はシュートを打つことでリズムを掴むプレイヤーだ。
サイズが弱点になる相手ならプレイタイムは3分でも良い。シュートを打たせろ。
○まとめ
不要論と必要論を比べると、アジア相手では必要論が有力で、世界相手だと不要論も説得力を帯びてくる。ただし、他のプレイヤーが世界と戦えるかは別問題なので、富樫の日本代表入りはベターな選択と考えられる。
富樫を代表で輝かせるためには、オフェンスのオプション順位を上げてシュートを打たせることが肝要である。ただし、シュートを打たなくてもゲームメイクは一流なので、Bリーグのプレイができないからといってチームに貢献していないわけではない。